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「どちらが先に逝っても安心」夫婦同時に遺言書を作成した事例

~「その次」まで決めてこそ、本当の解決になります~

夫婦でお互いに財産を残し合いたい。そう考えて遺言書を作るご夫婦は増えています。しかし、単に「妻(夫)に全て相続させる」と書くだけでは、将来的に大きな落とし穴があることをご存知でしょうか。

今回は、お子様のいらっしゃらないご夫婦が、姪御様を交えて「ふたりがいなくなった後のこと」までしっかりと話し合い、真の安心を手に入れた事例をご紹介します。


相談者様の状況

  • ご相談者: 田中健一様(仮名・76歳)、和子様(仮名・73歳)ご夫婦

  • ご家族: お子様はいらっしゃいません。

  • 財産:府中市内のご自宅(土地・建物)、預貯金

  • 推定相続人: 健一様の兄弟姉妹(およびその子供)、和子様の兄弟姉妹(およびその子供)

  • 関係性: 和子様の姪である「由美さん」が近くに住んでおり、日頃からなにかと夫婦の世話をしてくれている。

ご相談のきっかけ・お悩み

健一様と和子様は、夫婦そろって参加したセミナーをきっかけに、「自分たちも元気なうちに遺言を作っておこう」と決意されました。

当初のご希望はシンプルでした。

「子供がいないので、どちらかに万が一のことがあったら、財産は全て残された配偶者に渡したい」

しかし、お話を伺う中で、「ある重要な視点」が抜けていることに気づき、お二人にアドバイスをさせていただきました。


司法書士からの提案と解決策

1. 「お互いに」だけでは片手落ち?

「全財産を妻(夫)に相続させる」という遺言は、夫婦のどちらか一方が亡くなった時点では有効です。しかし、残された配偶者がその後亡くなった時(二次相続)、最初に亡くなった方の遺言書はもう効力を持ちません。

もし健一様が先に亡くなり、和子様が財産を相続したとします。その後、和子様が亡くなった時には、和子様の親族(疎遠な兄弟姉妹や甥姪など)だけで遺産分割協議を行うことになり、本当に財産を渡したかった人に渡らない可能性があります。

なぜなら、和子様の遺言には「配偶者に相続させる」と書いてあり、その配偶者はすでに亡くなっているので、その遺言は効力をもたないためです。

2. 「予備的遺言」の活用

そこで、「もし、遺言者より先に、又は同時に配偶者が死亡している場合」の行き先を指定する「予備的遺言」をご提案しました。

3. 姪御様への想いを形にする

お二人は、日頃から良くしてくれている姪の由美さんに感謝しており、「最後は由美に託したい」という想いをお持ちでした。そこで、以下の内容を盛り込むことにしました。

  • 第1段階: お互いに全財産を配偶者に相続させる。

  • 第2段階(予備的遺言): もし配偶者が先に他界していた場合は、姪の由美さんに全財産を遺贈する。(和子さんからは相続、健一さんからは遺贈、ということになります)

  • 付言事項: 由美さんに対し、財産を譲る代わりに、死後の事務手続き(葬儀や家の片付け、永代供養など)をお願いする。


結果:「ふたりがいなくなった後」も安心

ご夫婦は姪の由美さんを同席させ、生前にこのお話をされました。 由美さんは「おじ様とおば様の最期は私がしっかり看るから安心して」と快諾され、お二人の想いを受け止めてくださいました。

こうして、ご夫婦は「相互遺言(予備的遺言あり)」を公正証書で作成されました。

  • 健一様・和子様の声 「最初は『お互いに渡せればいい』としか考えていませんでした。でも、ふたりともいなくなった後、家やお金がどうなるかまでは頭になかった。姪っ子にきちんと『頼むね』と言えて、彼女も『任せて』と言ってくれた。これでどちらが先に逝っても、あとに残っても、本当に安心です。」


【ここがポイント!】解決の鍵

どちらかの遺言は必ず「使えない」

夫婦がお互いに遺言を書いた場合、先に亡くなった方の遺言は執行されますが、生き残った方の遺言(「先に死んだ配偶者に渡す」と書かれたもの)は、受取人がもういないため無効(空振り)になります。 だからこそ、「配偶者がいない場合は〇〇へ」という「予備的な行き先」まで書いておかなければ、本当の解決にはならないのです。

感謝と負担のバランス(死後事務の依頼)

特にお子様のいないご夫婦の場合、可愛がっている甥や姪がいるなら、単にお金を残すだけでなく、「最後のことを頼む代わりに遺産を残す」という約束を生前にしておくことは非常に有効です。これにより、財産を受け取る側も正当な対価として受け取ることができ、親族間のトラブル防止にもつながります。


遺言書の作成は「点」ではなく「線」で考える必要があります。 「夫婦相互遺言」を検討されている方は、ぜひ「ふたりともいなくなった後の景色」まで想像してみてください

この記事を担当した代表司法書士

アコード相続・遺言相談室

代表司法書士

近藤 誠

保有資格

司法書士・簡裁訴訟代理認定司法書士

専門分野

遺言、家族信託、M&A、生前贈与、不動産有効活用等の生前対策

経歴

司法書士法人アコードの代表を勤める。20年を超える豊富な経験、相続の相談件数6000件以上の実績から相談者からの信頼も厚い。


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